オーグロ慎太郎の「新・夜明けのない朝」

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1976年のアントニオ猪木

アメリカでもロシアでもオランダでもブラジルでも、リアルファイトである総合格闘技と一種の演劇であるプロレスとの間にははっきりとした境界線が引かれている。

にもかかわらず、大多数の日本人にとってプロレスと総合格闘技の区別はないに等しい。[中略]

2002年8月、PRIDEとK−1の短い蜜月時代に行われた史上最大の格闘技イベント『Dynamite!』。そのハイライトは、ヘリコプターからスカイダイビングを敢行したアントニオ猪木が国立競技場に降り立ったシーンであった。[中略]

驚くべきことに、プロレスラーのアントニオ猪木総合格闘技のアイコン(偶像)でもあるのだ。[中略]

この国において、アントニオ猪木総合格闘技のシンボルとみなされるのはなぜだろうか。

猪木がリアルファイトを戦ったからである。(「はじめに」より抜粋)

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また暴露本かよ。と、眉をひそめるプロレスファンも少なくないとは思います。が。外部の人間ではなく、メジャー団体の元レフェリーが暴露本を出版してしまい、さらにインターネットの普及で、ほとんどあらゆる事象の裏側が暴かれてしまう時代に、プロレスに関するノンフィクションを著すのであれば、プロレスは真剣勝負ではなく、あらかじめ勝敗が決まっている「ショー」である。この重要な一点に触れなければ、そこでもう失格でしょう。悲しいけれども、時計の針を昭和に戻すことはできないのです。

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本のタイトルのとおり、アントニオ猪木が1976年に挑んだ異常な4つの試合についての研究の成果であるこの本、猪木本人にも取材を依頼したが断られたそうだが(そりゃそうだろ)、「世紀の大凡戦」として名高いモハメッド・アリ戦において、あの有名な膠着状態、いわゆる猪木アリ状態はなぜ起こったのか、そして、どうして両選手ともその状態から抜け出すことができなかったのか。綿密な調査と分析で解説していくくだりは、まるでミステリー小説の謎解きを読んでいるようなスリルを憶えます。それだけでなく、猪木と初の異種格闘技戦をおこなったウイリエム・ルスカのあまりにも恵まれない半生記。つくづく人生は不公平にできています。

とまぁ、読んでいてさまざまな感情に駆られてしまったわけですが、結局、読後に最初に湧いてきた感想。それは、やはりプロレスラー・アントニオ猪木は空前絶後の存在である、ということです。アリガトォーッ!!

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