50の反則
東京・東あずまの聖地といえば、ステーキハウス「ミスターデンジャー」。おのれのニックネームをその店の名に冠したオーナーであり、デスマッチをこよなく愛する孤高のプロレスラー・松永光弘。初著作「ミスター・デンジャー プロレス危険地帯」から9年、気がつけば新作を著していたりするんですよ! 題して「人生の壁を破る50の反則」。
「一介のレスラーから、実業家にまでのし上がり、苦闘から学び取った『反則』をここに記す!」(帯より抜粋)。これだけ読むと、まるで松永が周囲の人間を裏切り続け、法律をもねじ曲げて生き延びてきたような印象を受けますが。たしかに目次を開いても「ルールを疑え」「権威を疑え」「窮地であえて仕掛ける」など、なにやら物騒な文句が目に飛びこんできますが、それらと並んで「おごられるよりも人におごれ!」「お客様の目線を忘れるな」「女性は常にリスペクトしろ」など、松永ファンを困惑させるような教えもあったり。要するに常識や契約書にも穴というか盲点はあるんだぞ、と。インディー・プロレス界という非常識きまわりない、そして明るい未来が見えない世界に身を置いてきた松永だからこそ語れる、人生やビジネスを成功させるアドバイスなんですね。
しかしッ、この本のいちばんの反則は、終盤「だいぶ紙幅も限られてきた」と前置きしておいて、店のバイトで雇っていた女子プロレスラーの生き霊に念を送り、退散させたはいいが、その夜の厨房で、宙を舞う包丁に襲われるという「心霊バトル」のエピソードをいきなり語りはじめるところでしょ。足を刺され、大流血の重傷を負いながらも「もっと精神レベルを上げて、志の高い人とスピリチュアルな交流をしたいと思っているよ」なんて呑気に書いてるあたり、もう「ナイス・デンジャー!」としか言いようがありません。