「ヒッチコック」(2012)
『北北西に進路を取れ』で大成功を収めたアルフレッド・ヒッチコック監督が意欲的な次回作『サイコ』を完成させるまでの物語。なんだけど、同時にヒッチコックの妻であり、助監督・脚本家・編集技師でもあったアルマ・レヴィルとの絆をじっくりと描いている。
今作、どのあたりまで事実に基いているんだろうか。アルマは『サイコ』ヒロインを冒頭の30分で殺すように夫にアドバイスし、その夫が心労のため高熱で倒れてしまうと、現場におもむき撮影の陣頭指揮をとるのである。ヒッチコックのファンにとっては知られたエピソードなのかもしれないけど、個人的に驚かされたのはアルマの内助の功でありました。ヒッチコックが己の容姿にコンプレックスを抱いていて、ブロンド美女に執着していたというのはどこかで読んだ記憶があるけれど、他にも嫉妬深く、のぞきが趣味で死体にも興味があり、『サイコ』のモデルとなった実在の殺人犯エド・ゲインにもなにやらシンパシーを感じてしまう御仁だったようで、彼のちょっととぼけた風貌の中に隠された倒錯した欲望を知ることができて、なんだか観ていて口許がゆるんでしまいましたね。
それにしても、ヒッチコックほどの巨匠でも、新作映画のために自宅を抵当にいれなければならなかったとは。そこまでしても撮る。撮らなければならない。つくづく映画とは、アーティストがまさに骨身を削って創りあげる芸術娯楽作品なんですね。