「あなたへ」(2012)
俳優・高倉健のたたずまい。見どころはこの一点につきる。あえてジャンル分けするならば「高倉健、主演映画」。豪華共演陣に囲まれていても、気が付けば、スクリーンにいるのは健さんひとりという印象。さすが、というより夢のなかで手品を見せられたような(?)不思議な気持ちになります。
ビートたけしは高倉健を「どこか偶然役者になっちゃったみたいなところがある」と記していますが、これ、スゴい的を射た表現なんじゃないですか。往年の大スター、三船敏郎や勝新太郎らと比べても、なんというか住んでいる惑星が違う。凡百の役者が一生懸命稽古を重ねて出来上がるものとは全く異なる次元にある、あの演技。なんなんでしょうねぇ、あの魅力は…。なにかとストレスがたまる現代に暮らす人々の心に静かに染み渡る。本当に美味しい料理を食べたら、味なんか覚えていません。観終わって頭のなかで「健さん、ありがとう」と。そう思わずにいられない作品でしたね。