「グラン・トリノ」(2008)
鑑賞後、躍る気持ちをおさえ、気分を鎮めて考えなおせば。充分に予想できた結末だったのかもしれない。シンプルな、じつに月並みなストーリーだったのかもしれない。実際、偏屈でガンコな独居老人が、近所の住人たちの温かさに触れ、しだいに心を開いていき…、なんて書くと、たちまち陳腐な人情話に成り下がってしまう。
なにをいまさら、かも知れないけれども。すぐれた映画には魔法がかけられていることを認めないわけにはいかないようです。客席のあちこちですすり泣く音を聞きながらエンディングを迎え、スタッフロールが流れ、客電が灯るまで誰ひとり席を立たなかったことは、僕が体験した厳然たる事実です。近年のクリント・イーストウッドが監督する映画は、正直重い。「ミリオンダラー・ベイビー」の結末に、ささやかな光明を見た、なんて映画通もいるらしいけど、個人的には落ちこむ一方でした。老境の男が自分の人生をどう締めくくるのか、がこの映画のテーマらしいけれど、僕が最後に見たものは、人間が次の世代の若者を育て、成長させるという尊さでした。
どうやら、古き良きアメリカは滅びてしまうらしい(よく知らないけど)。だけど、この世の中、まだまだ捨てたモンじゃないらしいです。