「1984年のUWF」
『1984年のUWF』読了。ほぼ全編にわたり、佐山聡の革新性と天才を褒めそやす一方で、相手にケガをさせることに鈍感なクラッシャーで(アンドレとの不穏試合や長州蹴撃事件で新たなファンを獲得する推移は面白い)、佐山のシューティング・プロレスのスタイルを丸パクリし、ビッグマッチ以外では露骨に手を抜いたなど、前田日明に対する評価はきわめて辛辣。
「(前略)心の中では、UWFの試合は面白くないと思っているんです。でも、世間では『UWFこそ本物!』と言われているし、『週刊プロレス』もそう書いている。
『UWFのプロレスがわからないとダメだ』という強迫観念が、僕の中にはありました。たとえば、ゴダールやトリュフォーの映画を観て『わからない』とは言えないじゃないですか。言えば自分がわかっていないことがバレてしまうからです。(後略)」(本文中より。格闘技ライター堀内勇の発言)
UWFが選手やフロントではなく、観客の幻想によって支えられていたことが強調されている。著者の、プロレスに対する徹底的に冷めた視線や、レスラーの心情を本人に代わって代弁してしまう筆致は相変わらず。