「ヒア アフター」(2010)
製作総指揮の欄に、スティーブン・スピルバーグの名が連ねてある。そして、映画の冒頭、パニック映画と見まがうような大津波がタイの街を飲みこむ。監督・クリント・イーストウッドの新作が「死後の世界」を扱うことを知った時は「ヘェ〜」と思ったけれども、この大胆なオープニングにも驚かされた。よく考えれば、イーストウッドが霊的なものに惹かれるのは、あまり意外ではないかも。昔観た、監督&主演作「荒野のストレンジャー」も、主人公の流れ者の正体はこの世の者ではなかったし。
齢80で、毎年新作を撮り続けるバイタリティだけにも脱帽なのに、霊能者や臨死体験など、ちょっと油断すればキワモノに転んでしまう題材を選んでも、己のスタイルをまったく崩さないブレのなさってどうよ。イーストウッドは「人間、死んだらどうなる?」ことを説いているのではない。そのことに気づき始めると、地味な色調の寒々しいと感じていた今作の体温がしだいに上がっていくのが分かる。死をきっかけに生を見つめる。その監督の視線を「慈愛」と呼んでもいい。余計な説明をはぶき、曖昧さを残しながら、観終わると身が清められた気分になる。秀作です。