「ダークナイト」(2008)
故・橋本真也の言葉を借りれば「時は来た」ということなのか。安易に「傑作」という言葉で片付けるのはいかがなモンかと思う。実際、この映画の世界観、受け付けないという観客も少なからずいると思う。ストーリーが詰め込みすぎなんじゃないの?とか、僕も言いたいことがないわけではない。けど、これだけの手練をつくした作品の前では、個人の嗜好はとりあえず脇に置いて、素直に参りました、と言うべきなのでは? コミックが原作でも、子供だましではない「作品」は作れる。その進化の大いなる第一歩に、我々観客は立ち会ったのかもしれません。
今作におけるダークナイト・バットマンは、主人公のヒーローなどではなく、ついに数多い登場人物のひとり、になってしまっています。秩序を守るために必要なのは「法」だけなのか。だれしも心の底に「悪」を育んでいるのではないか。そんな、目に見えない、しかし普遍的・根源的なテーマのもとでは、バットマンの新兵器など、刺身のツマみたいなモンです。なんの目的もない敵役のジョーカーが、山と積まれた札束をまるで紙くずのように焼却してしまうシーンが妙に印象的で、バットマンでさえ、最後にはモラルの一線を越えてしまう。こんな「重たい」映画が、興行記録を塗り替えるほどに大ヒットしているアメリカ! 元気ですかぁーッ!
今作の成功を機に、アメコミ原作の「シリアス」な作品が多数製作されるでしょう。しかし「ダークナイト」は、それらの試金石として、少なくとも3年は生き続けるのではないでしょうか。